(ゴーン・・)紅く染まる空。穏やかな京都の夕暮れ。「緋村ぁ?何してんの?もうすぐご飯だよぉ?」操の声が剣心を呼んだ。「・・直ぐ行くでござる・・。」葵屋の二階から夕暮れの町に視線を落とし、気の無い返事を返す。「早く来ないとご飯ないからね〜?」

急かされても剣心が動く様子はなかった。夕日に照らせれて何もかもが紅色。

無邪気に遊んでいた子供達の声はだんだんと消え始め、母親と手を繋いではしゃぎながら家路を急ぐ声が聞こえていた。「・・変わらない・・でござるなぁ・・。」

あの頃と同じ夕暮れ。日が暮れれば血の雨が降っていたあの頃と何も変わってはいない。

剣心はふと、自分の手のひらに視線を落とした。

血に塗れた手のひら。紅く染まった刃。悲鳴。顔に飛ぶ血しぶき。血の匂い。感触。

今でも昨日のことのように思い出されるこの記憶は―最早遠い昔の話。



「剣心?どうかしたの?ご飯、頂きましょ。」明るい声に剣心は現実に引き戻された。

「あぁ・・。」曖昧な返事を返す。「具合でも悪いの?元気ないし。」明るい声の主は心配そうに眉をひそめた。「・・心配ないでござるよ。薫殿。ただ、久しぶりに昔の事を思い出していたでござる。」微笑。『薫殿』その名前が今はとても大切な気がする。

遠い昔にここでなくしたもう一つの大切なモノは・・まだここに在るのだろうか。

記憶から消し去りたいほどに悲しいのに。それが出来ないのは忘れてはいけない戒めだから。「剣心?」心配そうに自分の顔を覗きこむ薫。それで初めて自分が険しい顔をしていたことに気付いた。「・・何でもないでござるよ。さぁ。行くでござる。」笑顔を取り戻して剣心と薫は下へ降りて行く。いつの間にか外の景色は闇に変わっていた。

開けっ放しの窓。そこから夜風が吹き込む。梅の香りと白い花びらを乗せて。



忘れてはならない。忘れてしまえたら楽になるのに。決して覚えておきたい事ではないけれど、忘れてしまえばその存在はこの世から完全に消えてしまう気がするから。

血溜まりの中に咲いた白い梅。汚れないようにずっと咲いていられるように。

今を生きる。大切な人と。