「・・・沖田さん?近藤さんたちと初詣に行ってたんじゃ・・・」
「ええ、さっきまでは。それより葵さん、ちょっと来てください」
沖田さんはどうしてかとても急いでいるようで、土間で息を弾ませている。
ちょうどお皿(なにせ今朝はお正月料理を並べたせいで大変な量だった)を
洗い終わったところだったので私の手は濡れていたのだが、
彼はそのまま、私が下駄を履く間も惜しいとばかりにその手を引いて早足に歩き出した。
さくさくと雪を踏む音が二人分、庭に足跡が連なる。
「ね、沖田さん、どうしたんです」
「とにかく、ついてきてください」
横目で伺った沖田さんの顔はどこか嬉しそうで、笑っているように見えたから
何も聞かないでついていくことにした。
沖田さんの手はあったかくて、こうして手を引かれているのがどうしようもなく幸せで、
このままどこに連れ去ってくれても私は構わないだろう。
そんなことを考えていると、沖田さんが急に立ち止まって、私の方を振り返った。
幾度も見て見慣れていてさえ、心を奪われるような最高の笑顔で。
連れて来られたのは屯所の門前。
「見てください、これ」
沖田さんが指差した先には、真っ白い雪に埋もれかけながらも
重なり合う花びらが黄色く鮮やかな光を放つ、小さな小さな花だった。
気づかずに踏んでしまいそうなほど丈は低く、それでも懸命に咲いたそれは、
明るい初日に照らされてきらきらと命を輝かせているのだ。
「・・・福寿草・・・?」
「ええ、可愛らしいでしょう?元日草とも言うんだそうですよ。
さっきの初詣の帰りに見つけたんですけど、葵さんに見せたくて」
なんだか、聞いているうちに嬉しくなってきた。
沖田さんはこの小さな花を私に見せたかったのだと言う。
そして、そのために花を手折ることはせず、私をここへ連れて来てくれた。
命あるものを命あるまま、その輝きを私に見せてくれた。
沖田さんたちが京に来て一年近く、京の人がなんと言って蔑もうと
私はこの人になら全てを預けることができる、委ねることができる。
「沖田さん・・・ありがとうございます」
沖田さんはちょっとだけ不思議そうな笑みを私に向けて、また足元の花に目を落とした。
きっと、どうして私が貴方にお礼を言ったのか、半分しか分かっていないでしょう。
私は貴方に、たくさんたくさんお礼が言いたい。
花を私に見せたかったと言ってくれたこと。
私に"生命"を見せてくれたこと。
こうして隣にいてくれること。
引いてきた私の手を、離さずにずっと握ったままでいてくれること。
幸せすぎて、貴方の手をぎゅっと握り返したら、
ふわりと優しく抱き締められた。
「今年もどうぞ、よろしくお願いします。葵さん」
「こちらこそ・・・。あの・・・今年も私のこと、好きでいてくださいますか」
「・・・何を言うかと思ったら。
今年も来年も、その先もずっと・・・愛していますよ、葵さんのこと」
「ええ・・・それが聞きたくて言いましたから。」
ふふ、とお互いに笑みが零れて、抱き締めあう腕には少し力が入る。
この年が、貴方にとって素晴らしいものとなりますように・・・。