蒼い月
(チリン・・)風が風鈴を揺らす。微かに吹く風が心地いい。夕方の紅く染まった空が綺麗だった。夏が近い。(ガラ・・)玄関の戸が開く音に薫は顔を上げた。
「ただいまでござる。薫殿。」「お帰りなさい!剣心。」いつもと変わらない光景。
でも・・何だか今日は、とても愛しいかった。『一人でいるのが寂しかったからかしら。』
「ただいまぁ!!」剣心の後ろを付いて上がって来たのは、町医・小国玄斎の孫のあやめ&すずめ。
「おかえりなさい。あやめちゃん、すずめちゃん。魚、たくさん釣れた?」
この日、剣心は、あやめとすずめを連れて近くの川に釣りに行っていたのだ。
その間、薫は掃除をしたり忙しく動き回っていたが、結局最後にはやる事が全て終わってしまってただ、沈みゆく日を眺めながら剣心の帰りを待つことになってしまった。
薫は、今でも独りが苦手。いつ帰ってくるか分からない相手を待つのは特に嫌いだ。
何もしないでただその人を想って待っていると段々悲しくなって、仕舞いには涙が流れ出してしまう時さえあった。「さぁ!ご飯にしよっかぁ!!」
薫は微笑む。寂しさを隠した笑顔で。
「バイバーイ!!」あやめとすずめと迎えに来た玄斎を送り出して神谷家は、急に静かになる。
「弥彦どうしたのかしら?もう、晩いのに。」薫は心配そうに言う。
「そうでござるなぁ。・・拙者が迎えにいってくるでござるよ。」
(きゅっ!!)「おろ!?」立ち上がろうとした剣心は、袂をひっぱられてよろめく。
目線を下げると薫が悲しそうな瞳でこちらを見つめていた。「薫殿・・?」
『『行かないで・・。』たった一言それだけ言えればいいのに。何でいえないのかな・・。』
薫の瞳からは涙が一筋こぼれた。「やだ!!・・あたし、何で泣いてるのかな・・?」
ただ、少しだけ離れるだけなのに。
「気にしないで。剣心。・・もぉ!!弥彦のヤツしょうがないんだから!!」
薫は、微笑んだ。涙を流したまま。
「・・薫殿。弥彦なら・・独りでも大丈夫でござろう。拙者は・・どこにも行かないでござるよ・・。」
『どこにも行かない。』
たった一言それだけなのに。薫の瞳からは、涙が止まらなかった。
「・・剣心!!剣心・・。もうどこにも行かないでぇ!!」
「・・どこにも行かないでござる。」